小生の師匠から江戸時代後期の儒学者・佐藤一斎が著した『重職心得箇条』というものがある、参考にしてみて下さいというアドバイスをいただきました。
早速、調べて、折乃笠に適用することにしました。
とても参考になりますので、皆さんも是非お読みください。
一般に「重職心得帖」と呼ばれることもありますが、正式な名称は『重職心得箇条』です。
この書物は、文政9年(1826年)、佐藤一斎が55歳のとき、出身地である美濃国岩村藩の重臣たちに向けてまとめたものとされています。
佐藤一斎は、現在の岐阜県恵那市岩村町にゆかりを持ち、後に江戸幕府の学問所・昌平黌の儒官として、多くの人材を育てました。
その門下には、佐久間象山、山田方谷、渡辺崋山など、幕末から明治維新にかけて活躍した人物が名を連ねています。
『重職心得箇条』は、聖徳太子の「十七条憲法」を意識したともいわれ、上に立つ者が心得るべきことを、全部で17条にまとめています。
しかし、その内容を読んで小生は驚きました。
約200年前に書かれたものとは思えないほど、現在の政治、行政、会社経営、地域活動にそのまま当てはまるからです。

17の教えを分かりやすくすると
第一条は、上に立つ者は責任の重さを自覚し、軽々しく振る舞ってはならないという教えです。
問題が起きたときに慌てたり、感情的になったりするのではなく、周囲の人々を落ち着かせる存在でなければなりません。
第二条では、部下や担当者に十分考えさせ、その意見を公平に判断することを求めています。
特に印象に残るのが、
「平生嫌ひな人を能く用いると云ふ事こそ手際なり」
という言葉です。
普段、自分が苦手だと思っている人であっても、その能力を認め、うまく活用する。それこそが、上に立つ者の力量だというのです。
自分と同じ考えの人ばかりを周囲に集めても、新しい力は生まれません。反対意見を述べる人や、自分とは異なる能力を持つ人を活かすことが、本当の人材活用なのです。
第三条では、守るべき伝統と、時代に合わせて変えるべき慣習を区別するよう説いています。
大切な理念や精神は守らなければなりません。しかし、「昔からやってきたから」という理由だけで、古い方法や習慣を残し続けてはいけません。
第四条では、前例を見る前に、まず自分自身で考えることの大切さを説いています。
「前例がないからできません」
「今まで、この方法でやってきました」
このような考え方を、佐藤一斎は約200年前に、すでに「役人の通病」と指摘しているのです。
第五条は、変化の兆しを早く見つけ、時機を逃さず行動することです。
将来の大きな変化は、突然起こるのではありません。その前に、必ず小さな兆候が現れます。
人口減少、少子高齢化、人材不足、生成AI、ロボット技術、地域産業の衰退なども同様です。「まだ大丈夫」と考えているうちに、手遅れになってしまいます。
第六条では、問題の中に入り込み過ぎず、一度距離を置いて全体を見るよう説いています。
当事者の思いだけでなく、組織全体、市民全体、そして将来の世代まで見渡して判断する。これが「活眼」、すなわち物事の本質を見抜く目なのだと思います。
第七条は、権力による無理な押し付けを戒めています。
部下の小さな落ち度を細かく調べ、厳しく追及することを「威厳」だと勘違いしてはいけません。それは、むしろ人間としての器量の小ささの表れだというのです。
第八条には、次の厳しい言葉があります。
「重職たるもの、勤め向き繁多と云ふ口上は恥ずべき事なり」
上に立つ者が「忙しい、忙しい」と口にすることは、仕事を部下に任せられず、自分で抱え込んでいる証拠だというのです。
心と時間に余裕がなければ、本当に重要な問題や、将来起こる大きな変化に気づくことができません。
第九条では、人を評価し、褒め、昇進させ、場合によっては処分する責任を、上に立つ者が負わなければならないと説いています。
人事や評価を部下に丸投げし、問題が起きたときだけ責任を押し付けるような姿勢は許されません。
第十条は、物事の大小、軽重、緩急、先後を正しく判断することです。
すべてを一度に行うのではなく、何が重要で、何を急ぎ、何を後にするのかを決める。そして2~3年、4~5年、さらには10年先まで見通して、順序よく実行することを求めています。
第十一条では、人を受け入れる広い心と、大きな器量の必要性を説いています。
細かなことにこだわり、ささいな問題を大げさに扱う人は、どれほど能力が高くても、その能力を十分に発揮することはできません。
第十二条は、信念と柔軟性の両立です。
自分の考えを持ち、正しいと判断したことは貫く。しかし、他人の意見を公平に聞き、自分の誤りが分かったときには、思い切って方針を変える。
信念を持つことと、頑固になることは違うのです。
第十三条では、強く進めるときと、いったん抑えるときのバランスを説いています。
改革には強い意志が必要ですが、力だけで押し通しても、人はついてきません。信頼を大切にし、正義と公平を基準に判断する必要があります。
第十四条は、形式主義を戒める教えです。
会議のための会議、報告のための報告書、誰も読まない資料、複雑過ぎる手続きなどに時間を費やしてはいけません。
通常の仕事は、可能な限り簡単にし、無駄な手数を省くことが大切だと説いています。
これは、現在の業務改善、デジタル化、生成AIの活用にも、そのまま通じる考え方です。
第十五条には、
「風儀は上より起こるもの也」
という有名な言葉があります。
組織の雰囲気や文化は、上に立つ者の態度から生まれます。
上司が陰で人の悪口を言えば、部下も悪口を言うようになります。上司が問題を隠せば、現場も問題を隠すようになります。
反対に、上司が公平で、誠実で、失敗を素直に認める人であれば、組織全体にも誠実な文化が育っていきます。
第十六条では、必要以上に物事を隠すことを戒めています。
もちろん、個人情報や企業秘密など、守らなければならない情報はあります。しかし、公開しても問題のないことまで隠せば、人々は裏事情を探り、組織内に疑心暗鬼が広がります。
何を決めたのかだけでなく、なぜそのように決めたのかを説明することが、信頼につながります。
そして最後の第十七条には、特に心を打たれる言葉があります。
「人君の初政は、年に春のある如きものなり」
新しい政治、新しい経営、新しい組織の出発は、春の訪れのように、人々の心を明るくし、希望を持たせるものでなければならないというのです。
財政が苦しいからといって、削減、禁止、処罰、我慢、負担増ばかりを並べても、人の心は動きません。
厳しい現状を正直に伝えながらも、その先にどのような明るい未来があるのかを示す。それが、上に立つ者の大切な役割なのです。
ここで、『重職心得箇条』を小生自身の活動に引き寄せて考えてみました。
小生は現在、「愛(AI)の街大月」の活動、生成AI講座、製造業におけるAI活用、地域の歴史研究、小山田信茂公顕彰会、など、さまざまな活動に関わっています。
どの活動にも共通しているのは、一人では何も成し遂げられないということです。
だからこそ、第二条の「自分とは異なる人を活かすこと」、第八条の「仕事を自分で抱え込まず、人に任せること」が重要になります。
小生自身、目的を達成したいという思いが強くなるほど、知らず知らずのうちに、自分の考えを優先してしまうことがあります。
しかし、本当に大切なのは、小生の考えを通すことではなく、参加する人たちが自分の役割を持ち、気持ちよく力を発揮できる環境をつくることです。
また、「愛(AI)の街大月」や製造業の生成AI活用では、第三条と第四条が大きな意味を持ちます。
地域や会社の大切な文化、品質、信頼、人と人とのつながりは守らなければなりません。
一方で、「昔からこの方法だから」「前例がないから」という理由だけで、新しい技術や方法を拒んではなりません。
守るべきものを守りながら、変えるべきものを勇気を持って変える。その判断が必要です。
さらに、第十四条の「手数を省くこと」は、生成AI活用の目的そのものでもあります。
生成AIを導入すること自体が目的ではありません。資料作成、情報整理、議事録、翻訳、教育、品質管理などの無駄な手数を減らし、人間が本当に考えるべき仕事や、人と向き合う時間を増やすことが大切です。
そして、地域づくりにおいて最も心に刻みたいのが、第十七条の「初政は春の如し」です。
人口減少、少子高齢化、財政問題など、大月市を取り巻く現実は決して楽観できません。
しかし、危機や問題ばかりを訴えていても、市民の心に希望は生まれません。
大月には、豊かな自然、歴史、文化、産業、地域を支える人々、そして新しい可能性を持つ生成AIがあります。
これらをつなぎ合わせ、
「大月は、まだまだ面白くなる」
「自分たちの力で、新しい大月をつくることができる」
と感じてもらうことが大切です。
小生が目指している活動も、まさに春の訪れのように、人々の心を少し明るくし、新しい一歩を踏み出すきっかけをつくるものでありたいと思います。
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『重職心得箇条』の17条は、現代のリーダーに必要な心得と言うか資質をすべて網羅している素晴らしい教えだと思います。この教えが200年前にあったなんて…本当に驚きです!
小生はここ数年8~12月まで設計派遣会社の主任クラスを対象にビジネス教育の講師(バイト)をやらしてもらっていますが、ここで同じようなことをコメントしています。
①同じ考え、意見をを持っている部下ばかりだと…金太郎飴!
こうならないように部下にはいろんな経験をさせ、権限移譲することで、自分は将来の仕事ができ、部下はモチベーションアップ
自分らしさ、自分のスタイルを確立
②バランス感覚ばかりではなく、時には尖ったアンバランス感覚を持って信念を持って前に進むことも大事
③優しい人になってはダメ、敵半分 味方半分 社内に敵を作らないと次ステップに成長できない
④課題など解決する場合、これまでの経験・実績よりもその時々の価値観を優先して判断する
⑤自分を知る、相手を知る、そして戦略を立ててアクションできる自立型人間を目指す
などですが、9月からの教育でも、この17条を参考にさせてもらいます。グッドタイミングでした!(笑)